ピーター・F・ハミルトン |
『マインドスター・ライジング』 (創元SF文庫・上下巻 2004年2月刊 竹川典子訳) |
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11月末現在、読書意欲を大きく後退させておるのですが、その原因のひとつがこれ。 あのね、もうめっちゃ地味やねん。 つまらんかった、とは言うまい。ストーリーは入り組んでいる割に破綻していないし、筋運び自体ももっさりはしているけど悪くない。書かれる内容に厚いところ薄いところはあって、あれはどうなったんだろう、みたいな点はあるけど、まあ許容範囲かと。 でもね、個人的な好みで言わせてもらうけど、やっぱりエンターテイメント小説は読んでいてドキドキできてこそ、だと思うのだけどどうでしょう。 舞台は地球温暖化でえらいこと海面が上昇した後のイギリス。主人公はそのイギリスでかつてマインドスター隊という特殊能力部隊に在籍していた特殊能力者。現在はフリーランスの彼に、ある日、英国一の大企業イヴェントホライゾン社からオファーが来る。曰く企業スパイが不当に我が社に損失を与えているからその調査に協力しろと。 ほうなるほど、やがて大きな事件に巻き込まれていくわけだな、と読み進めたわけだが、そのまま100ページをすぎ200ページをすぎ、ついには下巻に入ってそのままエピローグになってしまった。まあ、確かに最期の方ではもっと大きなたくらみみたいなものにもつながってはいくけど、それにしたって内容が堅すぎるだろう。 企業スパイ事件は確かに「おおごと」には違いない。それは頭ではわかる。でもさ、それって小説で、上下巻700ページもかけて読むほどのもんかい? それだったら高杉良あたりの経済小説を読んだ方がマシなのでは? 振り返ってみても、深遠なテーマ性みたいなものは見あたらない。純然たるエンターテイメント小説だと考えていいんじゃないかと思う。でもそれにしちゃあ地味じゃないか。あまりの地味さに読んでて調子が狂ってしまってなんか本を読みたくなくなってしまったのである。 主人公グレッグの特殊能力は、相手の感情の変化が感じ取れる、というもの。テレパシーとかサイコメトリーのように明確に情報が読みとれる、みたいなものではない。というか、ズバリ言ってしまえば「ガンダム」のニュータイプみたいなもんだ。相手の感情の揺れとか漠然とした喜怒哀楽が読める程度。この能力を企業スパイ捜査にどう生かすか。相手に容疑のキーターム、たとえば被害にあっていた製品名とかを告げる。それで必要以上に感情が揺れ動いたら犯人。 なるほどね、という感じではあるが、だからどうした、という感じでドキドキはしません。 ヒロインは大企業のご令嬢ジュリア。彼女も特殊な能力を持っている。脳内でその大企業の基幹サーバーへのアクセスができる。その企業の中に限ってだけど、「攻殻機動隊」の世界でおこなわれるような情報の処理ができるらしい。初登場時、彼女がその能力で何をしているか。自分の屋敷に泊まっていたガールフレンドとその彼氏のセックスを覗いてる。だーかーらー、そーじゃないでしょー。 まあ、これは彼女の抱えているコンプレックスを表現するためのシーンではあるんだけど、全般にこの世界の人たちは、あんまり能力を派手に生かさない。それともそんな場面が設定されてないだけなのか。 その他、電脳暴走族(ホットロッド)と呼ばれる非合法の職業クラッカーなど、設定としてそれなりに魅力的なガジェットは存在しているんだけれど、でも、何というか、いかにもSFファンが理屈で考えた代物、という感じで、筋は通っていても、すごく新しいとかドキドキするということがないのね。それはこの作家にとって、すごく大きな問題なんじゃないかという気がする。 SFという、今となってはなかば閉じてしまったに近い状況にある世界では通用するとしても、その世界を越えた訴求力を持たないのではないか、という気がするのです。 まあいずれにしても徹頭徹尾、地味に終始してしまうお話なので、読者にもあるていどの忍耐力は要求される本だと思います。いいたかないけど、そらSF衰退するわ、とまで書いてしまったら言い過ぎかな。 (2006.11.28) |
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