小松和彦・宮田登・鎌田東二・南伸坊 |
『日本異界絵巻』 (ちくま文庫 ****年*月刊 |
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本書は、「前詞」での小松先生の言葉を借りれば、「異界関係者たちの、小さいながらも『列伝』として編まれたもの」だ。 異界関係者とは何か。異界とはすなわち人外の世界であり、あるはそこに住まい、あるはそこと人界を往還し、あるは死後にそこの住人となった、そういう者たちのことらしい。 スサノオ、八岐大蛇など、神話の中の人物・怪物・神に始まって、聖徳太子や吉備真備といった歴史上でも有名なスーパースター、もちろん阿倍晴明、俵藤太、役小角、平将門といった異界色の強い伝説を持つ人々、河童や化け猫、累などそのものズバリの妖怪幽霊、さらには近現代での異界のあり方として出口王仁三郎、「ゲゲゲの鬼太郎」のねずみ男、口裂け女、「AKIRA」のサイキックチルドレンとナウシカなどについて、小松・宮田・鎌田の各氏が解説を書いている。ちなみに南伸坊は、ここではイラストレーターに徹して、人物や妖怪のイラストを描いているが、これが割に味があっていい。 列伝なので、こういう方面に興味のある僕のような人間にとっては、読んでいて楽しい一冊でもあるわけだが、巻末におさめられた鼎談は「日本人にとっての異界・現代人にとっての異界」というもののあり方を考えさせてくれるテキストになっているし、さらに付録として附されている「異界用語集」はちょっとした辞典としても使える中身の濃いものとなっている。 そもそも、日本人は、聖徳太子・吉備真備のような俊才に異界と結びつく伝説をくっつける一方で、将門、菅原道真、源義経といった悲劇の主人公にもまた、異界の影を付与して語り継いできた。 そのルーツは、あるいはヤマトタケルのような貴種流離の物語に求められるのかもしれないが、それをすることで、どこか精神的な慰めのようなものを、古来の日本人は感じていたのではないかという気がする。現世での支配者に放逐されても、しかし伝説の異界というより高次のところで救われる英雄たち。それは、例えばキリスト教のような峻厳な神を持つ民族には、あまりない感情なのではないだろうか。 (2002.10.26) |
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