森永卓郎



『ビンボーはカッコイイ』
 (日経ビジネス人文庫
 ****年*月刊
 森永の名前は、結局かなり売れたらしい永江朗の『批評の事情』で知ったクチです。その中で森永は、「構造改革ラテン系」という副題で紹介されていました。森永の項は、「批評の事情」の中ではまとまりが悪くて、どういう論者なのかいまいちピンと来ない紹介の仕方しかされていないので、ここでは引用しませんが、そこでも引用されていた「痛快ビンボー主義!」の中の一文、「カネを稼ぐことに仕事の目的を置いていた人は不況に弱い。人生の目標を失ってしまうからだ。ところが不況になればなるほど、仕事の目標をカネに置いていないビンボー人は強くなるのである」という言葉に惹かれるものを感じて、森永の名前自体はずっと憶えてたんですね。
 で、日経ビジネス人文庫の新刊として、本書が平積みになっていたのを見て、とりあえず買っちゃったと。
 名前を憶えててよかったです。普段だったら、絶対にビジネス人文庫なんて手に取らないし、見向きもしないですから。
 本書は実は、先ほど名前の登場した「痛快ビンボー主義!」の文庫版です。それにまえがきとあとがきをくっつけて改題している。

 前書きの中で森永は言います。
『痛快ビンボー主義!』を出版した九九年当時、もうバブル崩壊から十年近くも経ったのだから、人々の意識は変わっているだろうと思いこんでいた。しかしそれは大きな間違いだった。
 あれから三年、売れた本というのは『こうしたらカネ持ちになれる』という金儲けマニュアル本か、金融不安を煽り、いかに資産を防衛するのかという”ハルマゲドン本”ばかりだった

 しかし、これからの世の中、そう簡単に金持ちなんかになれないぜ、と森永は言います。
「景気が回復しても給料は上がらない」。能力主義の導入によって、「プロ野球選手や芸能人のような処遇を受ける人が増える」一方、「富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しく」なる、と。
 能力主義が本格的に導入されれば、一部の優秀な人間に金が集まり、その他大勢は、むしろ優秀な人間に金が流れていくぶん、貧乏になる。で、世間のサラリーマンのおっちゃんたちは、統計とか見ると自分の能力が評価されて給料が上がると思ってるようだけど、別にキミらレベルの人ってたくさんいるから、給料はまず持って下がるぜ、と。
 そんな中で、金持ちになろうとすると負け組になる。お金は儲からなくても好きなことだけやる、という方向で、ラテン系に攻めていけば人生は楽しい。
 それが、森永の主張であり、そして本書は、そうして「好きなことだけやって、貧乏だけど楽しく生きている」という人々へのインタビューを収録していくことになるわけです。

 実際のところ、オタクってのも、やってく上でけっこうお金が入り用なものなので、僕としては単純に「ビンボーでもダメじゃない!」とだめ連の皆さんのように割り切ってしまえない部分はあるんですが、「とりあえず好きなことが出来て、それで喰っていければ貯金とかはなくてもいいな」という感覚はわかります。研究者というのも同じかな。
 このへんの感覚がわかんないと、実際のところオタクとか研究者なんてやってらんないかもしれないですね。
 ただ、そこらへんの考え方に共感できるような人間を読者として想定するのなら、「日経ビジネス人文庫」で刊行するってどうなのよ、という気分になったりしました。そういう人間は、本屋に行ってもビジネス書はまぁ見ないね。
(2002.10.28)


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