吉田健一 |
『英国に就て』 (ちくま文庫 ●年●月刊) |
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吉田健一の名が、現在どの程度世間に認知されているものかと思ってGoogle検索してみたところ、4080件がヒット。ただ、結果リストを見ているとどうも同姓同名の吉田さんがけっこう混ざっているようなので、「吉田健一 イギリス」「吉田健一 英国」で検索しなおすと、トータル1156件。 ダブりやらカウントされてないぶんやら考え始めるとややこしくなるから、とりあえずこんなもんでいいでしょ。まぁ、こんなもんだろうとは思うし。 とは言え、僕の行ってた大学の図書館でもそうだったけど、ちょっと大きめの図書館に行けば、今でも青い表紙の「吉田健一著作集」が並んでいるのを見られるところは多いだろうから、この名前を目にしたことがある人はもっと多いに違いない。 本業は、一応、英文学者と言うことになるだろうか。吉田茂の長男として生まれ、少年時代からイギリスと日本の上流階級を往還するという、稀有な環境で育ち、やがて英文学者・随筆家として名をなした。 とは言いながら、この人はもう役目を終えてしまった人なのだなと、本書を読みながらしみじみ感じてしまう。 1974年に刊行され、1994年に文庫化された本書は、イギリスの生活・文化・その他諸々についてのエッセーを集めたもので、本格的な文学論というようなものは入っていない。 しかし、いくらなんでも、「イギリス人はこんな時こうする、日本人はこう」という、行動様式を国籍・階級でひとくくりにして文化比較をぶちあげるようなやり方は、さすがに現代、通用しない。 文章自体も、かなり書かれた年代がバラバラに散らばっているらしいことを念頭においても、決して名文だとは思わないが、それ以上に、内容の持つ意味合いはもはや、書かれた当初に意図されていたであろうイギリス文化の紹介・批評、あるいはそれと対比させての日本文化批評、という点においては失われきっていると考えていい。 当時の日本人はこうして西洋に学ぼうとしていたのだ、という時代の証言として、現代の本書はあるだろうが、そうなると、明治期、ちょうど漱石と同時期にイギリスに渡った長谷川如是閑の「倫敦?倫敦!」の方が、僕としては面白かったように思う。明治期と昭和期の英国紹介として、興味のある人は読み比べてみるといいのではないだろうか。 (2003.1.21) |
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